Special

Novel

アニメ「ファンタジスタドール」脚本家の1人である、じんのひろあき氏による、
ウェブ限定のオリジナルストーリーノベル!毎週更新中!

ファンタジスタドール
お砂糖とスパイスと何か素敵なもので女の子はできている

著:じんのひろあき
イラスト:Anmi

グオオオオオオオオオオ!
ティラノサウロスは吠える。
ヨモギちゃんが悲痛な声を上げた「カードが!」それにマドレーヌが答えた「大丈夫、呑み込まれただけです、噛み砕かれたわけじゃない」。
となると、カードは今、恐竜のお腹の中に? うずめはティラノサウロスの首から胴にかけて視線を巡らせるが、ピンクのツインテちゃんのカードがどのあたりあるのか外からでは皆目見当もつかない。
そして、ヨモギが選んだカードの武器、光り輝く目潰しパチンコ弾も、巨大剣玉も役には立たず、あげくの果てにピンクのツインテのカードは呑み込まれてしまった。
ヨモギを先輩カードマスターとしてリスペクト、実戦ってやつを勉強させてもらおうと思ったが、状況はさらに悪化した感じだ。うずめは自分ではまだなにもしていないにも関わらず、もはや手も足も出ないという窮地陥ったように一人で静かにパニくっていた。
「あ、あ…どうすれば、でも、私がここでなんかやっても、結局ヨモギちゃんと同じ事になるかも…」
その時、恐竜はふいに向きを変えた。
体育館の出入り口とは反対方向のドアが開き、関係者が中を覗き見たのに反応したのだ。
グオオオオオオオオオオ…
そして、そのままドス、ドス、ドス、ドスとその奥のドアに向かって歩みを進めていく。
その恐竜の頭部の後ろにへばりついている、うずめのドール、しめじの姿。
さっきからの、うずめ達の声は、しめじには届いて居ないのだろうか?
しめじが張り付いているあたりにこの恐竜のメインスイッチがあり、それを切ることに一生懸命になっているとは、うずめ達にはわからない。
ティラノサウロスがそのドアに頭を突っ込んだ。そして、体を身震いさせて、扉の枠をバキバキバキと壊しながら、外へと…出て行ってしまう…
外へ、出ちゃう…それで、どうするつもりの?
うずめは一瞬、その場で躊躇した。
というのも、ファンタジスタドールには有効範囲というものがある。
マスターからある距離離れてしまうとドール達は自動的にマニホールド空間に戻るのだ。
この場合、体育館から恐竜が出たとしても有効範囲の外まで行ってくれれば、しめじは無事にマニホールド空間に送り返されてくるだろう。
でも、だからといって…
「出て行くよ、あいつ」気がつくと、うずめの側に、ささらが戻って来ていた「どうする、マスター」。
「追いかけるよ」うずめはそう口にしていた。
どうやって? などということまで考える暇はなかった。恐竜のお腹にはヨモギちゃんのドールのカードがあるし、頭の後ろには、うずめのドールのしめじがしがみついている。
ほっとけばマニホールド空間に帰ってくるのはわかっているが、でも、だからってそれをここでじっと待っていれば、大丈夫、ということでもないだろう、うずめはそう思った。それは間違ってはいないと思った。
ささらが聞く「追うのはいいけど、どうやって?」
小明が「走る」
「やっぱそうか、それしかないよね…」うずめはしぶしぶ恐竜が壊して開いたドアから、ささら達と外へと駆け出した。

幸いにも、恐竜の歩みは遅かった。
歩道に停めてあった自転車が次々とティラノサウロスの頭突きで跳ね飛ばされていく。
ドスっ! ドスっ! ドスっ! 地響きをあげてゆっくりと歩いていく恐竜。
その背中に必死に掴まる、しめじ。
恐竜が一歩、また一歩と歩みを進める度に体は大きく上下し、それにしたがってしがみついているしめじの体も上下に恐竜の硬い皮膚の上でバウンドしているが、それもリズムがとれてきて、うまく乗りこなしているかのように見える。
その後ろから「しめじー!」と駆けてくる、うずめ達。
またしても、ドールのみんなは走るのが速い。
うずめはこうやって、一緒に走る人達の背中を体育の授業だったり、運動会のかけっこなんかでよく見た風景だな、なんてノンキなことをこんな時に思い出したりした。
一生懸命走ってはいるのだけれど、いつもいつも目の前に広がるのは自分よりも早く走るクラスメートの背中の方が多かった。
そして、その背中がだんだんと遠ざかるのも、いつものことだった。
 
「うずめちゃん!」後ろからのヨモギの声、うずめは振り返る。
ヨモギと二人のドールがこちらに向かってそれはそれは綺麗なフォームで走って近づいてくる。
あっという間にひーはー言いながら走っている、うずめの横に並んだ。
「全部、元通りにしてきたよ!」ヨモギはそう言って後ろを示して、うずめに笑いかけた。もちろん、走りながら、だ。
うずめは自分たちが飛び出してきた体育館のドアの穴を振り返って見る。
恐竜の開けた穴は見当たらない「あれ?」うずめは間の抜けた声を出した。
なにが起きたのか? と、うずめの走るスピードは遅くなり全力疾走している、ささら達のグループからさらに離れていきそうになる。
「うずめちゃん、走って!」ヨモギがグイッ!と手を引き背中を黒髪と銀髪のドールが「それ!」「がんばって!」と押してくれる。
「どうやってあれを元通りに?」うずめが言う。
うずめの目の前にヨモギが一枚のカードを取り出して見せた。
「修復カードを使ったの」
「え? なにそれ?」
「このカードを使うとね、どんなにメチャメチャになったものでも、あら不思議。元あった通りに戻してくれるんだ」
「そんな便利な!」
「私、片付け苦手だから、このカードがあるおかげで、いっつもずいぶん助かってるんだ」
「片付けてくれるカード?」
「うずめちゃんもこのカード、持ってるんじゃないかな」
「え? ホントに、本当に?」
その時、ファンファーン! と真横の車道で車のクラクション!
走る、うずめ達の一団に後ろから追い上げてきて今、並んだのは一台のバン。
車体の横には大きく恐竜のシルエットが描かれその横に東京東西大学仮想現実化研究会一号車というロゴ。恐竜のシルエットはもちろんティラノサウロスの横顔であり、並んだ無数の牙がある口を開いていて笑っているかのようだが、妙にリアルな画だ。
車が走るうずめ達の横に停まった。
助手席の窓が開いて女子大生が顔を出して手招きする「乗って、後ろに!」。
「へ?」と、うずめ。
「走ってたって追いつかないよ」と女子大生。
ぎゃあぁぁ! と、勢いよく、ささらがバンのドアをスライドさせて開けると、小明、マドレーヌ、そして、うずめが先に乗りなよ、とヨモギちゃんと二人のドールを乗り込ませて、自分が一番最後に飛び乗った。
ガシャン! とドアが閉まり、ぎゅるるる! とタイヤを鳴らしてバンは走り出す。
ドスっ! ドスっ! と、先を歩くティラノサウロスを追って!

助手席の女子大生、名をユキという彼女が、うずめ達を振り返って訊いた「あんた達、あの恐竜の背中に乗ってる女の子の友達?」
「はい、そうです」折り重なってまだうまく座れていない、ドールたちに押しつぶされながら、うずめがとりあえず返事をした。
「グオの奴、どこへ向かってると思う?」ユキが後ろの席のコンタに大きな声で問いかけた。
うずめが「グオ?」と聞き返す。
「あの恐竜、ティラノサウロスの名前。あ、ちなみに私の名前はユキ、運転しているのがナナ。そこの後ろに乗っているのがコンタ」
気がつかなかったのだが、後ろの荷物の間に男子大学生が一人。大きなパッドをものすごい早さで指で弾いては様々なウインドウを開いては閉じ、開いては閉じしている白衣を着た丸メガネの彼、うずめ達にちょっと手を挙げて挨拶した。
うずめ達もまた「えっと、あの…鵜野うずめです」「ささらです」「小明です」「カティアです」「マドレーヌです」とそれぞれが自己紹介し、続いて「ヨモギです」と言い、ヨモギちゃんの黒髪のドールが「ロランです」そして、銀髪のドールが「ヴァニラです」と言って頭をちょっと下げたりした。
後ろの荷台からコンタが「グオは今、自分で考え考え歩き始めてるんだ。どこ行くかはわからんよ」と、さっきの問いに答えたとたん、助手席のユキが「なんでわかんないのよ、あんたが作った人工知能なんでしょうが!」と怒鳴る。
「そもそもなんで人工知能のスイッチが入っちゃったんだ? あの恐竜の背中にのっかってる女の子が…」とコンタに言われ「しめじ、ですか」うずめは恐る恐る訊いてみる。
「しめじちゃんっていうの?」と、ユキ。
「そうです」と、さらに恐縮して、うずめ。
ユキは窓の外、併走してドス、ドスと歩いている恐竜の首の後ろの、しめじの姿を示して言った「彼女はグオのこの暴走を停めてくれようとしているだけよ」
言われて、うずめはもちろん、ささら達ドールも改めて、しめじの姿をよく見てみる。
しめじ、こちらの車に、うずめ達が乗り込んでいることに気がついたのか、必死に腕で×を作ってはメインスイッチを指す。
「首の後ろのメインスイッチで、コンタ、どうしてグオを停められないの! どうなってるのよ!」ユキが再び後ろの男子大学生を責める。
しかし、そのコンタという男子はその罵倒めいた言葉にもまったくめげることなく言い返す「あのメインスイッチはねぇ、秋葉原のジャンク屋で二束三文で買った中古パーツだから」
ユキがさらに言う「どうして? メインスイッチをジャンクのパーツで作るのよ! 信じらんない!」
「もう予算が尽きてたんだよ、誰かさんが人工衛星に使うような高価な合金で骨格を作ったりするから」
「だって、骨格は軽くてしっかりしているもんじゃないと役に立たないでしょ」
「骨格だけじゃない、駆動系だってハンパなく金が掛かってるんだよ」
「それはなに? 大学からの助成金からなにから、湯水のように使って足回りを設計施工した私を責めてる。ねえ、そうなの? そういうことなの? え? なんとか言いなさいよ!」
「え、いや、その」さすがにそのコンタという青年も言葉に詰まり始めた。
「責めてる?」ダメ押しのようにユキが続ける。
「褒めてます」根負けしたコンタがそうつぶやいた時、併走しながらこちらを見ていたグオの瞳がぐわっ!と開いた。
そして、歩道から車道へ恐竜は歩み出すと…
うずめ達の乗るバンに向かって突進してきたのだった。
ティラノサウロスは首を大きくこちらに向けて振り、額を勢いよく激しく、うずめ達の乗るバンのドアへと打ち付けてくる。
グアン!
グアン! 
うずめの悲鳴「ひいぃ!」。
ハンドルを握るナナの声「なに、私達が乗ってるこの車がなんかしたっていうの?」。
じっとさっきから恐竜の視線を冷静に追っていた小明がその理由に気づいた「車に描かれている恐竜のシルエットに反応してる!」
確かに!
描かれている恐竜のシルエットを友達だと思ってじゃれついてきているのかもしれない。
じゃれつくのがこんな猛烈な頭突きの嵐なんですか? と、うずめは思うが車内のどっかに掴まっているのが精一杯で言葉にはならない。
「ナナ、ハンドル切って! 逃げるしかないよ!」
追っかけているはずが、なんで追っ掛けられているの? うずめが珍しく突っ込みを入れようとするが、これもまた言葉となって出てはこない。
バンのハンドルを大きく切るナナ。
きひひひ!
タイヤが鳴き声を上げるほど軋ませて、すぐ側に建つ安売りショッピングセンターの駐車場の入り口へと向かう。
四階建ての立体駐車場。
入り口のゲートにはまず駐車券を取るようにと黄色と黒のバーが目の前、横一直線に行く手を阻んでいるが、その前でユキさんはブレーキを踏まずにアクセルを踏んだ。
ばっきゃん! という音を立ててそのバーが吹っ飛ぶ。
こういうシーン、なんかの映画では見たことがあるけど実際に目の当たりにするとは!
助手席のユキがハンドルを握るナナに食ってかかる。
「なんで立体駐車場の中なんかに入るのよ!」 それにナナが言い返す「じゃあ、他にどこ行けってのよ!」
「ナナ! あんたわかってんの? この駐車場は四階までしかないのよ!」
「だから何?」
「ホラー映画の掟を知らないの?」
「なにそれ?」
「なにかに追っかけられて、上へ逃げようって、言った人達はたいてい捕まっちゃうもんなのよ」
「あ! そうだ!」うずめが声を上げる。数日前に無理やり見なきゃならなかったクラスメートが貸してくれたホラー映画には確かにそういうシーンがあった。
「後ろを見て!」ナナにそう言われて車の中の全員が、もう遙か後方、駐車場の入り口ゲートのところで足止めを食っているグオの姿を見た。
ナナもまたバックミラーでその様子を再確認し「グオはまっすぐ立つと八メートル。この駐車場の天井までは四、五メートルってとこでしょ。たとえここまで追ってきたとしても、頭がつっかえて、そうそう自由には動き回れない」
「本当に?」と、ユキはナナをすがるように見る。
「たぶん…」どうやらナナもまた自信があるというわけでもないようだった。
そして、うずめが申し訳なさそうに報告する。
「グオ、頭を下げて入って来ます」

つづく。