Special

Novel

アニメ「ファンタジスタドール」脚本家の1人である、じんのひろあき氏による、
ウェブ限定のオリジナルストーリーノベル!毎週更新中!

ファンタジスタドール
お砂糖とスパイスと何か素敵なもので女の子はできている

著:じんのひろあき
イラスト:Anmi

「ただいまぁ」とうずめが家に帰ってくる。
夕御飯の時間、日はもうとっぷりと暮れている。玄関で待ち構えていたのは妹、みこ。
「お姉ちゃん、今日はコミフェスに行ってきたんでしょ? なに買ってきたの? なに買ってきたの? 見せて見せて見せて」と、うずめにまとわりついて言う。
みこは今日、うずめ達がどんな大冒険をしてきたのか、知るよしもない。
にしても、だ。と、うずめは思う。五人のドール達をマニホールド空間に戻らせておいて良かったよ。
「見てきただけ、なにも買えないよ。だって、そもそも、そんなにお小遣いもらってないじゃん、私達」と、うずめが言うと「それはそうだよね」みこもそれきり黙ってしまった。
「ご飯はあとで食べる…かも」と告げ、うずめは二階の自分の部屋へ。

明かりを点けるとデバイスを手にしドール達の召還の言葉LINGOをつぶやく。
天翔る星の輝きよ…時を越える水の煌めきよ。
今こそ無限星霜の摂理にもとづいて、その正しき姿をここに…あらわせ!
そして、たいていは「マスター!」と、元気よく飛び出してくる、ささら達であったが、さすがに今日は「疲れたぁ」と、こちらの空間に現出するなり、その場にしゃがみ込み、ゴロゴロと寝転がり、ドテっと俯せになった。
もう今にもそのまま寝入ってしまいそうな雰囲気だ。
うずめが頭を深く下げ「本当にみんな、お疲れ様でした」と労をねぎらう。
小明が言った「でも、まだ何も解決してないよ、マスター」
「うん、それはそうなんだけど…みんな、大変だったし、疲れているのもわかるんだけど、お風呂とか入らない?」
良い提案だと思ったのだが「あたし今日はお風呂とかはいいや」とカティアに言われ、ささらにも「明日、朝、早起きしてシャワーにする」と言われる始末だ。
ただ、そんなドール達の中でも、しめじだけが黙りこくっている。
「しめじちゃん、お風呂入ろうよ。これはマスターである私の命令です」

今日は湯船に、うずめとしめじの二人きり。
向かい合い体育座り。
「二人きりだと、けっこう余裕だね」うずめが言った。
しめじの顔、明るさを取り戻さない。
そして、しめじはぼそりと言った。
「グオは今頃、なにしてるかな」
「電源を見つけて充電中。だよ、きっと」とりあえず、うずめはそう言った「さっき車で送ってくれた大学生さん達もなにかグオの足取りがつかめたらすぐにメールしてくれるって言ってたし。そもそもあの恐竜のお腹の中にはヨモギちゃんのカードが一枚まだ入っているわけだから…なんとしてでも見つけ出して、カードをヨモギちゃんに返してあげないと、ね!」
「そうだよね」
「私達はもう一回グオに会わなきゃなんないんだよ、どうしてもね」
「そうだよね」
「そうだ!」うずめは一瞬、湯船で立ち上がった「今日みたいな疲れを取るのには、とっておきのアロマを入れよう」
「え、いいの? マスター?」
「こんな時のためにね、バブルアロマがあるんだよ。二人で泡だらけになろ」
「はい、マスター」しめじが少し微笑んだ。
ミントとローズの二種類、どっちがいい? と、うずめは聞いた。
そして、しめじのリクエストにより、ミントの香りのバブルがお風呂に溢れ返ったのだった…

うずめとしめじが部屋の前に戻ってみると、なんだか良い香りがしてくるではないか。
ドアの向こう、部屋の中から、ささらの声がする「ん~、やっぱり、良い香りは疲れをとってくれるよね」
ドール達は、電気ポットでお湯を沸かして、みんなでハーブティを飲んでいた。
アップルティの素敵な香りが、うずめの部屋に充満している。
「あ、帰ってきた、帰ってきた」カティアが、うずめとしめじが座る場所を空けてくれる。
「お待ちしてましたよ、二人を」と、マドレーヌ。
「待ってたって、なにを?」うずめが聞く。
気がつくとみんななんとなく車座になっていて、うずめとしめじがその輪に加わると、ささらが改めて正座して宣言した。
「これから恐竜のグオをいかに確保するか、という緊急作戦会議を行います」
「よろしくお願いします」と、カティア、マドレーヌ、そして、小明が声を揃える。
慌てて、うずめとしめじも頭を下げた「よ、よろしくお願いします」
ささらが話始めた「先ほどグオは地下鉄十八号線の工事現場の縦穴に落ち、そこで消息を絶ちました」
小明が言う「捕獲するチャンスがあるとしたら、もう一度姿を現した時」
ささらが「そうです」と頷いて「では、その時、地上に再び姿を現したグオを生け捕りにするにはどんな方法があると思いますか?」
「はい」と手を挙げたマドレーヌに「どうぞ」と指名。
「ネットで調べてみたのですが、大昔、氷河期の終わりに人間がマンモスを相手に槍などを使って戦ったのではないか? というイラストが数点見つかりましたが、これはまったく当てになりません」
ささらがそれを受けて言う「相手はマンモスじゃなくて、ティラノサウロスだしね」。
カティアが「だね」と頷き、マドレーヌが続ける「肉食恐竜のティラノサウロスを捕獲する実践的な方法というものは、この広大である、と言われているネットのどこにも書かれてはいないのです」
「それはだから…」小明が慎重に言葉を選びながら発言する「人類初の恐竜狩り、ってことだから…」
カティアがまたしても「だね」と、それに同意する。
マドレーヌがさらに続ける「まだ誰もやったことがないことを、今、マスターうずめと私達ドール五人、そして同じくマスターであるヨモギさんと彼女の二人のドール達でなしとげなければならない、ということです」
ささらが発言する「で、具体的にどうすれば?」
カティアが元気よく手を挙げて言った「はい! はい! はい! はい!」
ささらが「はい! は一つでいいです、はい、カティア」
「はい」と返事してカティアは立ち上がって言った「みんなそれぞれ特大のヨーヨーで、グオの手、足、尻尾などに絡ませて、引き留める、というのはどーでしょーか」
小明が間髪入れずに突っ込む「でも、そんなことしたって私達の力よりも恐竜の力の方が断然力が強いわけだから、ずるずるずるずる、どこまでも引きずられていってしまうだけでしょう」
「そうだ、そうだ」「だよね、そんなの」と、誰が何を言ったかわからないくらいに、小さな声でみんなが不満の意を表明する。
「そこで、です」カティアはまだ話はこれからだとばかりに声を一段と大きくして自説を語る「それはそうです、もちろんそうです。でも、ずるずる引っ張られていってしまうのは私達だけでそれをやるから、じゃない?」
ささらが聞く「私達だけ、じゃないとすると…他に誰が?」
カティアがその問いが出るのを待っていましたとばかりに言う「みんなに手伝ってもらえばいいんです」
「みんなって誰です?」マドレーヌが聞いた。
「市民のみなさん、っていうか、そこらへんにいる人達です。協力を仰ぐんです」カティアは胸を張ってそう言い切る、そして「一人や二人じゃなくて、ヨーヨーのワイヤーをどんどん伸ばして、何百、何千という人々の力で、ティラノサウロスを引き留めるんです。一人一人が持っている小さな力を合わせる時がやってきたわけです」
ささらが、さてこの自信満々のカティアになんと言ったらいいものか、と考えあぐねながらも「うん、うん、言わんとしていることはわかるよ、カティア、でも、なんか腑に落ちないのは私だけかな?」
「せっかく人類が初めて体験するティラノサウロス生け捕り作戦なんだから、一人でも多くのみんなに参加してもらった方が、捕まえた後の感動もより大きなモノになるはず」
ここで小明がこの作戦の重大な欠陥を指摘した「最後はそれでもいいかもしれないけど、最初からその大勢の人達がいるわけじゃないでしょう? だったら、ヨーヨーのワイヤーを引っかけた後、もしもティラノサウロスが猛ダッシュして駆け出したら、私達は…」
ささらが両手を広げて、体をくねらせて、その時に想定されるであろう、みんなして引きずられる様をやってみせる「あれぇぇ…って街中を引き回しの刑に合ってしまうわけでしょ?」
カティアが「そこは、ほら、なんとかうまくやって」と言うが、またしても小明が突っ込む「そのなんとかうまくってところが、一番ネックになると思う。どうせまだそこは考えていないんでしょ?」
カティアは「えへへ」と微笑んで、笑ってごまかそうとする。
ここでようやく、うずめがゆっくりと手を挙げて発言した「グオに大きな虫取り網みたいなものを上からかぶせて捕獲するってのはダメでしょうか?」
ささらの相づち「それ良いと思うよ、マスター!」
小明が冷静に「虫取り網をどうやって恐竜の頭上に運ぶ?」。
うずめもまた深く考えての発言ではない「えっと、どっか…例えばビルとビルの間の上に最初から用意しておいて」小明はさらに詳細を述べよと「じゃあ、そのビルの上に設置された虫取り網の下までどうやってグオをおびき出すの?」
カティアがまた勢いよく立ち上がり「はい! はい! はい!」
ささらが「はい! は! 一つ!」と、たしなめるがカティアはまったく気にする様子もなく発言する「その下まで、ヨーヨーのワイヤーでグオを引きずっていけば!」
小明もさすがに冷静さを失い「だから! そのワイヤーは誰が引っ張るの?」
マドレーヌが呆れながら言う「もしかしたら、市民のみなさんが何百、何千人と力を合わせたりするの?」
「ん…ダメかな」とカティアはまったく応えてないよう。
うずめが恐る恐る手を挙げた「間違ってるかもしれないけど」。
司会進行役の、ささらが「はい、マスター、間違っててもいいから、元気よく発言してください」と指名した。
「えっと、ですね」うずめはドール達みんなの顔を見渡して言った「引っ張ったりするよりも、グオをおびき寄せるような、そういう方法ってないんですかね」
小明が「ふうん」と感心し「逆転の発想ってわけだ」と腕を組んで考え込む。
自分の意見が認められて、うずめはちょっといい気になって先を続ける「例えば、グオの好物を目の前にぶら下げる、とか」
ささらも「なるほどね」とつぶやいて「馬面にニンジン作戦ってわけか」
「でも」とマドレーヌが「グオは機械仕掛けですよね。好物とかあるのかな」と素朴な疑問を提示した。
「そこなんだけどね」うずめだって、そこが問題なのはわかってはいた。
そしてそこで、この堂々巡りの会議はようやく先に一筋の光を見た。
「グオは、しめじの笑い声が好きなんだ。だったら、笑っているしめじでおびき出せばいいんじゃないかな?」
会心の一撃とも言えるマスターうずめの発言に、一同は「おおっ!」とどよめき、拍手が起きた。
ささらが「しめじ、ニンジン作戦だ!」と言った時、うずめの携帯が鳴った。
グオの生みの親、カソ研の大学生からだった。
「グオの居場所が特定できた!」と電話から興奮した声が聞こえた。

つづく