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Novel

アニメ「ファンタジスタドール」脚本家の1人である、じんのひろあき氏による、
ウェブ限定のオリジナルストーリーノベル!毎週更新中!

ファンタジスタドール
お砂糖とスパイスと何か素敵なもので女の子はできている

著:じんのひろあき
イラスト:Anmi

天翔る星の輝きよ…時を越える水の煌めき…
今こそ無限星霜の摂理にもとづいて、その正しき姿をここに…あらわせ!

これがファンタジスタドールを呼び出すパスワードっていうか、合い言葉っていうか…LINGOというらしい。
通学路を一人でとぼとぼ帰りながら鵜野うずめはぶつぶつぶつぶつこのLINGOをくり返しくり返し唱え続けた。
天翔る…星の輝きよ…時を…越える水の? 水の煌めき…
今こそ無限の、じゃない、の、はいらない。
無限星霜の…
「…でも、なんでこんなに長いんだ?」
出てきてお願い! 助けてピィンチ! とかじゃなんでダメだったんだろう。
これちゃんと覚えて、いつどんな時でも正確に言えないと、いつまで経ってもファンタジスタドールが肝心な時に現れないってことになるんでしょ?

学校の中庭でうずめは彼女達、ファンタジスタドール五人とチームを組むことを『約束』した。
まず現れたのは、ささらという名前の女の子。
うずめはとりあえず、ささらに聞く。どういうルール? どういう設定なんですか? 
普段は、あの…その五人のファンタジスタドールさん達はみんな…どこにいるの?
「マニホールド空間」ささらが答える。
「それは…なに?」
「さーて、どこから説明すればいいかな」
「あの…ファンタジスタドールさん」
「ん? なんでしょう、マスター」
「マスター…なんですかね、私が?」
聞き慣れない言葉だし、なんだか偉そうに思える言葉だし、で、うずめは「マスター」と呼ばれるのはなんとも居心地が悪い。
「そうです、マスター。あなたが私たちドールのマスター。ファンタジスタドールはマスターであるあなたの夢をかなえるんです」
「うん、うん、それは何となくわかりました」
「本当なら今すぐに他のメンバーも呼び出してマスターに紹介したいのだけど…」
制服のうずめの側に私服の女の子達が五人集っちゃうと目立ってしょうがないからね、と、ささらは言い「どこか、マスターが大丈夫って場所に来たら、私達を呼び出して。呼び出す時にはね…」

というわけで、うずめは先の召還の呪文を教わった。
「天駆ける…天駆ける…」
うずめはもうそれだけで、いっぱいいっぱいだった。
ごにょごにょつぶやきながら道をうつむいて歩いていた。
そして、ささらのリクエストである、大丈夫そうなところ、うずめの家への帰路からちょっと寄り道したところにある、広々とした公園へと辿り着いたのだった。
人の姿はほとんどない。
大丈夫そうな場所、だ。
この公園をよく使う赤ん坊を連れたお母さん達はもう家で夕御飯の準備を始めているだろうし、小学生達はみんなでゲームするのに、わざわざこんな公園に集まったりはしない。
うずめはブランコと鉄棒の側でデバイスを片手に、ようやく覚えた召還の言葉を唱えてみる。
「天翔る星の輝きよ…時を越える水の煌めき…煌めき?」これで合っているのか、不安にはなりながらも、とにかくうずめは続ける「今こそ無限星霜の摂理にもとづいて、その正しき姿をここに…あらわせ!」
たどたどしいが、それでももう、うずめは一字一句間違わずに言えるようになっていた。
そして、それからのほんのわずかな間、うずめは知るよしもないのだが、ドール達は待機しているマニホールド空間と呼ばれている部屋でバトルコスチュームや装備を次々と着替え、装着して光に包まれていく。
うずめは「さあ、こちらの世界へ」という意味だと教わったLINGOの最後の言葉を口にする。
「アウェイキング!」
準備万端整えたドール達の姿は電脳空間で霧散し、現実世界のうずめの側でじゅわわわわ…とみるみる実体化していくのだった。
一つ…二つ、三つ四つ五つの光る影!
さっき中庭に出現したドール、ささらが言った。
「マスター、上等、上等。あたしたちの呼び出しはバッチリ覚えたみたいね」
呼び出すことはできた。
そして、今、うずめの目の前に五人の女の子が、ファンタジスタドールがいる。
「みなさん…が、ドールさん?」
「はじめましてマスター」うずめからすると、お姉さんタイプ。で、眼鏡っ子、いや、お姉さんタイプだから眼鏡女子、って言った方がいいか。そのお姉さん眼鏡女子が「マドレーヌです」と自己紹介した。
続いて黒のリボン、そして、黒っぽい服でゴスにコーディネイトしているクールな女の子が「小明よ」と言って小さく敬礼して見せた。敬礼? なんで初対面の人に敬礼? 
「よろしくおねがいしまーす、カティアです」と一番小さな青い髪の青い服の女の子がぺこりと頭を下げて言った。
えっと、この小っこい子がカティアちゃん。
さらに「しめじです!」ピンクの女の子がえへっと微笑む。
えっと、マドレーヌさんに、小明さんに、カティアちゃんに、しめじちゃん…と、うずめが再確認している最中に!
あ! あ! まだダメ! 動かないで!
ちょっと、待って、誰が誰だか! 
ああ、ダメ、ダメ、歩き回って位置を変えないで! 
せっかくなんとなく覚えたのに、ああ、ダメだ、うわ、ダメだ! うわ、うわ、うわ、
いろんな意味でうずめはパニくっていた。人の名前と顔を覚えるのは正直苦手だ。なんせ、初対面で相手の顔をまじまじと見れないもんだから、印象がどうなのか、とかあんま残らないというもの原因の一つだ。

だが、ささらはそんなふうにどぎまぎしているうずめのことを気にする様子もなく
「さ、さあ! マスター、次のステップに進んでいいよね!」
「あ、はい」
またしても、うずめは「あ、はい」ってわかってもいないのに返事をしてしまう。「あ、はい」って言うと、言われた方は「わかりました、大丈夫です」という意味にとらえて、話がどんどん先に進んじゃって、いつもいつもうずめはさらに大混乱になる、っていうこともわかっているのに。
ささらは言った「じゃあ、次はライティングカードとオーバルカードの使い方ね」
アウェイキングでこちらに呼び出したドール達にさらに、ライティングカードを使って服を与え、またその場、その場に応じたオーバルカードというもので、武器を装備しなければならない…らしい。
「はい、マスター、次はね!」
「は、はい」
「マスター、覚えた?」
「なんとなく」
「じゃあ、やってみて!」
「なにを?」
「今、覚えたこと?」
「ど、どれ?」
 
気がつくと夕暮れになっていた。

ドールたちは「カードに戻して、見つかって面倒な事になる前にね」と言ってカードに戻った。
一度、駅の方へとうずめは引き返す。
どっと疲れていた。足取りは重い。
夕方の駅。雑踏。駅のスーパーの呼び込み、ティッシュ配り、やたら大きな音でカーステレオをドムドム鳴らしながら走り去る車高の低い車…
うずめが見慣れているいつもの風景。
でも今日はなんだか、ちがって見えた。
夢をかなえてくれるとあの五人は言った。
でも、夢ってなんだろう。
自分の夢。ってなんだろう? そんなことをようやく考える時間ができた。
ドールたちはみんな確かに、うずめのことを「マスター」「マスター」と呼んでいた。
でも、マスターってのは『御主人様』ってことなはずなのに、彼女たちはうずめのことをあんまり『御主人様』扱いしてくれている感じがしない。
「マスター」と呼んでいるだけ。もっと言うなら「マスター」呼ばわりしているだけだとわかってきたのだった。
普通だったら、それはどうよ、って思うところかもしれないけど、うずめはその方が楽だった。
マドレーヌさんに、小明さんに、カティアちゃんに、しめじちゃん…そして、ささらちゃん。
自分の夢のことも問題だけど、でも、それよりもドールたちとこれからどういう生活が待っているのか、なにが起きるのか、わくわくしてくる気持ちの方が強かった。
玄関に入る前、うずめはふと思った。
この先、待っていることなんてなんだかわからない。でも、それをあのドールと一緒になんとかできるかもしれない。たぶん、なんとかなるんじゃないかな、と。
そんなふうに誰かとなにかを乗り越えること。
なにかってのは、もちろんなんだかわからない。
なにかわからないから、なにか、なのだ。
そして、それは結構大変なもの。
一人では立ち向かえない。
でも、仲間がいれば、ドールたちがいてくれれば大丈夫かもしれない。
よし、来い! なにか!
ウエルカムなにか!
もしかしたら、これこそが、自分の…
鵜野うずめの夢なのではないか、と。
『誰かと…なんかうわーっとなったりしたい』
今日、中庭でそう書いたことを思い出した。

「わあ、お風呂だ、お風呂だ」「お風呂好き好き」「まったりしよー」
「待って、待って、待って、しー! しー! しー! 静かにぃ!」うずめが制しても騒ぎはとまらない。
部屋に戻って、アウェイキング! 
ドールたちを再び呼び出したのは良かったんだけど、うずめが「そろそろお風呂の時間なんで」と言ったとたんに、これだった。
「わーい! わーい!」「お風呂だ、お風呂!」「マスターんちのお風呂、どんなお風呂なんだろ?」「楽しみぃ!」「どんな、お風呂、どんなお風呂?」
どんなお風呂も、こんなお風呂も、ない!
うちのお風呂は普通のお風呂だ!
っていうか「ドールさん達、みなさんはお風呂に入るんですか?」
「もちろん」「必要不可欠なもの、それはお風呂」
お風呂が必要なの? ファンタジスタドールってのは?
「お風呂が嫌いなドールがいて?」とマドレーヌ。
「わかった、わかったからみなさん、静かにお願いします。お母さんと妹にばれたら、なんて言い訳したらいいかわかんないし」

 つづく。